オメでたい頭でなにより全国ワンマンツアー2024

「今 いくね くるね 4」TOUR FINAL
2024.4.4 @恵比寿LIQUIDROOM

開演を告げるSEが鳴り響き、ステージに登場した、324（G）、mao（B）、ミト充（Dr）。３人が「鼓舞激励」の演奏を始めると、待ちわびていたオメっ子たちの手拍子がすぐに合流した。赤飯（Vo）、ぽにきんぐだむ（G・Vo）も現われ、「日本一幸せな場所にようこそ！　今日はぶっ壊れるぞ！」という言葉が放たれると、ますます熱を帯びたサウンド。２MCスタイルで交わされる歌声、構築されたバンドアンサンブルが心地よい。フロアで沸き起こった歌声を受け止めたメンバーたちの表情が嬉しそう。活動休止前の最後のワンマンライブが、こうしてついに幕を開けた。

「最初から全力で来いよ！」と赤飯が煽り、2曲目「着火繚乱ビンビンビン」に勢いよく突入しかけたのだが……ベースの音が鳴らなくなり、演奏がストップしてしまった。「事件って起きるでしょ？　事件ついでに言っていい？　俺、昼の公演、イヤモニ壊れてた（笑）」――突然のトラブルを楽しんでいた赤飯。そして機材トラブルはすぐに修復され、「着火繚乱ビンビンビン」が再開された。オメっ子たちが掲げた拳がビンビンと震え、サビに差し掛かるとたくさんのタオルが花びらのように大回転。続いて「乾杯トゥモロー」が、人々の興奮状態をさらにエスカレートさせた。上品な和風の紋章が染め抜かれた旗がステージ上で優雅になびき、フロア内では2つのサークルモッシュ、通称“チンチンサークル”が発生。人々がゆっくりと歩きながらサムズアップの杯を交わし合う“チンチンウォーク”の平和な風景も壮観だった。

「遠くから来た人は、お金がかかってるわけでしょ？　オチンギン、足りてなくない？　懐寒くない？　だったらお前らのオチンギンがぶっ太く、熱く、硬くなるように、オチンギンの神様にお祈りしちゃうの。あたいだけの力じゃ全然足りない。お前らの力が必要なの！」――赤飯の呼びかけに応えて、“￥”を示すハンドサインを掲げたオメっ子たち。「オチンギン欲しいの～」というセクシーボイスを合図に華々しくスタートした「チン♂アゲ⤴交渉中」は、切なる願いを込めた叫びが天に向かって激しく突き上げられた。オチンギンの神様は、思わず吐息を漏らしたに違いない。


「よくぞお集まりくださいました。感謝を曲に込めて、世界一バカな光景を作りたいので、協力してくれますか？」（ぽにきんぐだむ）。「最後のワンマンっていう実感が全然湧かない。湿っぽいことをやる気なんて１ミリもない。涙なんか出ない。泣いてるやつ見かけたら、ほっぺた叩きに行くんで（笑）」（赤飯）――ふたりのMCを経て、強力なサウンドがさらに連発された。ヘッドバンギング、激しい手拍子が会場内をビリビリと震わせた「四畳半フォークリフト」。赤飯がクラウドサーフをしながら歌い、人々の興奮の炎に油を注いだ「あれこれそれどれ」。音楽が授けてくれる無上の力を心から信じさせてくれた「NO MUSIC NO LIFE」……押し寄せてくる爆音の熱量が、とにかくとんでもなかった。あの空間で涙を浮かべた人がいたとしても、一瞬で蒸発してしまったことだろう。

「推しごとメモリアル」は、楽器担当のメンバーたちが途中で演奏を一旦ストップし、ダンスを始める姿がクレイジー極まりなかった。「我こそは一番うるせーというやつ！　ギターバトルしようぜ」と、曲の中盤でオメっ子たちに挑戦状を叩きつけた324。この言葉を聞いて名乗りを上げた男性は、フロアのど真ん中でギター型バルーンを勇者の剣のように構えた。彼の情熱的なエアギタープレイと324のギターソロが火花を散らし、オメっ子たちは拍手喝采。そして、どうかしているパフォーマンスはさらに続いた。「推しのこメモリアル」に突入すると、女性アイドルボイスでブリブリと歌い始めた赤飯。その周囲でペンライトを振り回し、大声でコールをしたぽにきんぐだむ、324、mao、ミト充のクネクネした動きは、先ほどまでかっこいい演奏をしていた人たちだとは全く思えない。フロアにいるオメっ子たちのヌメヌメしたコール、ガチ恋口上も負けてはいなかった。異様な声の一斉攻撃を受けて、完全にかき消されたミラクルキュートな赤飯の歌声……。厄介ヲタの雄叫びがライブの主役となっていく様は、文字通り地獄絵図だった。



「我々はラウドロックバンドを名乗ってきましたが、気づいたらお前らの方がやかましくなってたなあ（笑）。よくぞ、ここまで育ってくれた！　そんなラウドロック勢のお前らに今からチルいことをやらせるから」と赤飯が言いつつ歌い始めた「今宵、又旅へ」は、会場内のムードを爽やかに塗り替えた。続いて披露された「地下室の王」は、ラテンとラウドの併せ技。スタンドに固定したアコースティックギターと、エレキギターの演奏を素早く切り替える324の姿が目を引いた。今年の1月にリリースされた最新アルバムでも異彩を放っていたこ２曲だが、ライブでの存在感もすごい。活動を重ねる中で大きく広がったオメでたの作風を再確認させられた。

「お前らと一緒に歌いたかったけどコロナ禍で歌えなかった曲があって……。お前たちとこの曲をついに完成させる！　“全部上手くいきますように”というお祈りの歌だよ」と赤飯が言い、スタートした「頑張っていきまっしょい」は、曲に刻まれたメッセージをオメっ子たちの大合唱が一際輝かせていた。そして「すばらしい時代」も、ライブで新鮮な表情を浮かべる曲のひとつ。本来はホロ苦い風味なのだと思うが、フロアから起こる歌声が加わると不思議と前向きな響きを帯びるのを感じた。

「たしかに我々は活動休止前のファイナルだと言った。だけどさ、誰が解散と言うた？　解散なんて一言も言うてない。勝手に終わらされると困る。いつだってわしらは、反撃の機会を窺ってるんや。戦術っていうのは、いろいろあるんだよ。たまには退くことも大事。退いてから一気に撃ち抜く。そんな瞬間が数年後に訪れると本気で思ってる。そのための反撃の狼煙。お前らと一緒に上げる反撃の狼煙を恵比寿リキッドルームに置いていくからな！」――赤飯の言葉を受け止めてから聴いた「ザ・レジスタンス」は、とても雄々しかった。力強く歌う赤飯に刺激され、何人ものオメっ子たちがリフトアップされたフロアの風景が、ありありと思い出される。

怒涛のクラウドサーフを巻き起こした「スーパー銭湯〜オメの湯〜」を経て、本編を締め括った「オメでたい頭でなにより」。屈強なオメっ子に肩車されながらフロアのど真ん中に移動した赤飯を中心として作り上げられた風景は、オメでたのライブが育んできたものの大きさを示していた。「バンドに憧れ続けて、ようやくこの光景を見られるようになりました。これができるのはライブハウスだから。“ライブハウスにはこんなに心揺さぶられるもんがあるんや！”って思って自分たちでバンドを組んで、そんな光景を作りたいと思って歩んできました。思ってたのと違うけど、なんかいいぞ（笑）」……リフトアップされた何人ものオメっ子が赤飯を取り囲み、四方を力持ちの人々がしっかりと支えている様は、まるで難攻不落の城塞。大合唱が繰り返される中での素敵な共同作業となっていた。

「みんなの“好き”という気持ちが背中を押してくれて、みんなの姿が勇気になっていました。お前らも俺らのことが好きかもしれないけど、俺らの方がお前らのことが好きだからな！　バンドは活休するけど、各々が最強のバンドマンになって、また戻ってきたいと思います。活休の間は“好き”という気持ちを心の奥に持っていてくれたら嬉しいです。8年半、ありがとうございました！」（mao）
「このバンドでいろいろな“初めて”を奪われてきました。演奏せずに踊るとか、車の運転も何万キロ走ったか。もう当分運転しなくていいんだよ（笑）。今日も良い景色を特等席から見させてもらいました。ツアーに来てくれた人、全ての関わってくれた人、集まってくれた人、全部のみなさま、愛してます！」（ミト充）
「“オメでたのおかげで救われました”とか言ってもらったりして。すげえ嬉しい気持ちになります。でも、よくよく考えたら偉いのは俺らじゃなくて立ち上がったお前ら。お前らが立ち上がる選択をしたわけで、生きる選択をしたお前らが偉い。それを忘れないでほしい。お前らが一番かっこよくて、尊いということを心のどこかにしまっておいてほしい。また会った時、よりかっこよくなったお前らと会えるのを楽しみにしてます」（324）
「“愛”でしかこのバンドは進んでなかった。スタッフ、お客さん、メンバー、家族の“愛”があるからここまでやってこられたんだなと思ってます。こんなに愛されるバンドは、二度と作れないかもしれない。10代から音楽をやってきて、いまだに始めた頃に聴いてた音楽は聴くんだよね。いつでもいいからオメでたの曲を思い出して、愛してあげてください」（ぽにきんぐだむ）
「すごい光景を見せてくれてありがとう。ずっと言ってる通り、解散じゃないから。わしらは強くなって帰ってくる。お前らも強くなってここに戻ってきて。お前らの信念に従って生きろ！　お前らがオメでたが好きで“戻ってきてほしい”と思ってるんやったら願っとけ。戻ってくるから！　ずーっと反撃の狼煙はお線香みたいに上がってますからね。何年後かにそのお線香が、ぶわあああー！って舞い上がってこの空を覆いつくす時、オメでたい頭でなによりは復活するであろう。それまで、しばしのお別れだ。また会おう。ふはははは～！（※終盤は某有名悪魔風の喋り方）」（赤飯）
……オメっ子たちへのメッセージを届けた後、一旦はステージを後にした５人。しかし手拍子と繰り返された「We will luck you」の一節の大合唱に応えてメンバーたちは再登場した。アンコールで最初に届けられたのは、2018年4月4日、丁度6年前にリリースされたジャーデビュー曲「鯛獲る」。そして「ブラジルに行きたいか？」という言葉と共に演奏が始まった「花魁ドリルスピン」は、本当にイカれていた。激しいサークルモッシュを始めたオメっ子たちのエネルギーは、恵比寿リキッドルームのフロアからブラジルに至るトンネルを完成させかねない勢いだった。ドリルスピンだけでは飽き足らず、手近なものをパーカッションのように叩きながらビートを放つ人々も大量発生した瞬間、あの空間は本当にブラジルと繋がっていたのかもしれない……。

オメでたを支えてきたスタッフの1人1人が紹介された後、赤飯が改めて想いを語った。「8年半、本当にお世話になりました。メンバーもありがとな！ 8年半後に辿り着いた景色が、これでした。いろいろありました。でも、今日、こんなにすごい景色を見られました。この景色がわしらにとって最高の答えあわせでした。お前らとまた会いたいから、324がこの曲を作ってくれたの。《長生きしようぜ》って言ってるけど、80歳、90歳、100歳まで生きようっていうメッセージじゃない。お前らと会いたいって、それだけのことを言ってる。最後の最後、1個宿題です。また会うための宿題を出しておきます。各々の人生、QOL高く生きてください。それぞれがそれぞれの人生をめちゃくちゃ気持ちよく生きてほしいと本気で思ってる。だから必ず数年後にまたQOL高めで会いましょう。その時に答えあわせしような」――そして「答えあわせ」を歌い始めた赤飯。前のめりに駆け抜けるサウンドが力強かった。クラウドサーフが絶え間なく起こるフロアは、謎の力が作用している超常現象のよう……。たくさんのWピースも掲げられた風景が、とても神々しく感じられた。

5人を拍手と歓声が見送って終演を迎えた時、清々しい余韻が会場内に漂っていた。寂しい気持ちはありつつも、前向きに一区切りをつけることができた感覚がメンバーたちはもちろん、多くのオメっ子の胸の内にあったのでは？　「湿っぽいことをやる気なんて１ミリもない」と赤飯は言っていたが、まさにその通りだっただけでなく、頭のネジが外れまくった宴を徹底的に作り上げたオメでたは、やはり唯一無二のバンドだった。4月29日の『ブクロックフェスティバル2024』のステージを以て彼らは無期限活動休止に入る。しかし、未来のどこかで再会できる日は巡ってくるのだと思う。再始動した時にまた生まれるはずのクレイジーな何か楽しみにしつつ、今後の5人各々の活動を見守るとしよう。

文：田中大
写真：ゆうと。

オメでたい頭でなにより全国ワンマンツアー2024
「今 いくね くるね 4」TOUR FINAL
2024.4.4 @恵比寿LIQUIDROOM

[Setlist]
1. 着火繚乱ビンビンビン
2. 乾杯トゥモロー
3. チン♂アゲ⤴︎交渉中
4. 四畳半フォークリフト
5. あれこれそれどれ
6. NO MUSIC NO LIFE
7. 推しごとメモリアル
8. 推しのこメモリアル
9. 今宵、又旅へ。
10. 地下室の王
11. 頑張っていきまっしょい
12. すばらしい時代
13. ザ・レジスタンス
14. スーパー銭湯～オメの湯～
15. オメでたい頭でなにより
En1. 鯛獲る
En2. 花魁ドリルスピン
En3. 答えあわせ